いろいろ賛否はあると思うけど、私は今回のG7サミットで岸田さんがやった功績は大きかったと思います。
それは本来原爆を落として、かつての「枢軸国」と戦って勝利した連合国側の首脳、特に原爆投下した側のアメリカの大統領を被爆者の慰霊と、平和記念公園の展示見学をさせたということです。
そもそもG7は連合国のアメリカ、イギリス、フランスとバトルした枢軸国のドイツ、イタリア、日本が仲良くいる場所です。
そこで、あの忌まわしい大戦の「結果」を全員で「訪れ」「過去を振り返る」作業は……両者とも「苦々しい」思いだと思います。
私は以前、広島の平和記念公園、8月6日の式典に西東京市の市民代表で参列したことがあるので今回のG7首脳が一列に献花して礼をしている姿は感慨深かったです。
いま、我が国はかつて「鬼畜米英」と呼んで、激しい戦いと抵抗をして敗戦し占領した米英と70年以上の歳月をかけ「重要な同盟国」「パートナー」にまで国交を復活してきました。
それが、アメリカの一方的な支配であるとか、原爆投下はアメリカの戦争犯罪だ……と右翼も左翼も批判するのはわかっています。
私も日本人として、日本国民としては「被害者意識」であり、アメリカは加害者だと思うのがベースです。
いっぽうで、アメリカにとっては「日本はパールハーバーで卑怯な手段で奇襲してきた」「ナチスドイツの友達」であり、「原爆投下はしかたない、当然の作戦だった」だけです。
ですので、単純に「戦争の勝敗」「うらみつらみ」だけでやっていたら、一生かみ合わないと思います。
だけど、あれだけの殺し合いをして、お互いうらんでいた者同士でも、70年経つと「にくい」「むかつく」事実はあるけど「いつまでもそれじゃダメだよね」「昔を見てばかりでなく、未来を正していかないと」……と考えるものです。
そして、あの敗戦のあと、多くの日本国民が思ったのは「もう戦争はしたくない」という気持ちだったと思います。
その強い願いが、日本の憲法第9条にこめられているし、我が国は戦争を放棄し、専守防衛の国家として70年歩んできました。
そして、かつての敵国のアメリカの庇護のもと安全保障の恩恵を受けて最低限の軍事費で今日まで他国と戦争をすることなく平和に過ごしてきました。
だけど、今、われわれは今度は中国やロシアと戦争をしなければならない局面にきています。
そのなかで、岸田さんはタカ派でなく、自身が広島出身であること、地元広島の人たちの被爆者としての気持ちを尊重しながら「できるかぎりの努力」をしたと思います。
それが、広島でG7サミットをするということでした。別に広島でなくても他の土地でもいいわけですが、あえて広島を選んだのはこうした深い意味があったと思います。
ましてや、本来、アメリカにとって広島に行くこと自体が「イヤな」話なのに、それを承諾してもらえたのは、プラスして「核軍縮」を岸田さんが織り込むことにも成功したことです。
そうした面で、本来、広島・平和の話は野党、左翼がすべきことなのに、保守の自民党の総裁であり、首相である岸田さんがやってのけたのは……日本の政治史でも残る偉業になったと思います。
安倍晋三なら広島でやらなかったと思います。
そして、岸田さんは「広島ビジョン」を発信しました。読んでわかることを書きます。
■広島ビジョンの意味
私は長年、平和運動をしてきました。世界連邦運動や、アジアやアフリカから飢餓貧困をなくす、アフリカでこどもが銃を持たされて戦争に動員されている、感染症が蔓延している……それを解決できないか、日本側で運動してきました。
そして、日本で運動することは「とても大事な意味」が国際的にあるのです。
なぜなら、日本は世界でも第3位のGDPを誇る経済大国であり、その地位は世界経済全体の5%にも及ぶのです。ちなみにアメリカは25%です。
そのため、日本はアジアの中でも唯一「世界銀行」「IMF」に理事を送り構成メンバーとなっています。韓国や中国、インドでも入れないのです。
そして世界中にODAで莫大なお金を各国に援助・融資してその国の経済やインフラを助けてきました。
私が活動していたのは日本政府にさらに、そのお金を「医療」「感染症対策」「貧困者の直接的な救済」のために使うよう、国会議員にはたらきかけ、内閣府に採用してもらうことでした。
小渕首相が沖縄サミットをしたとき、私たちはそのお願いを何度も政府・外務省に行いました。それはサミットでの「イニシアティブ」「声明」に文字を入れさせることです。「200億円の援助をします」と書かせる。言わせる。
それが……すごく大事なのです。なぜなら、政府は「予算」がないと「その政策の実現」ができないからです。だから国会の予算で「アフリカのエイズ・マラリア対策に200億円支援する」と明記させ、その予算案を国会で議決させることが……口だけで「助けたい」より……よっぽど……大事なのです。
私はその仕事をボランティアでしてきました。
それは、とても苦労する作業でした。でも、そういう自分からしますと、今回の岸田さんが出した広島ビジョン、声明文では「女性のため」「若い人」「NGO」に配慮したくだりがありました。
実は歴代の内閣、首相でああいうことは「書いてくれない」「入れない」のです。
私からすると岸田さんは、自民党、保守でありながら、ずいぶん、市民運動や左翼側にも配慮した……スタンス、ポイントを出したな……と思いました。
変な言い方ですが、野党の仕事を「うばった」ようなものです。
ということで、今回の広島ビジョンは、平和運動、反核運動の人たちからすると「完全ではないけど、いい前進であり、首相自らがこれを発信して核戦争をふせごう、平和を推進しよう」というメッセージを出したことは評価すべきだと思います。
■でも、バイデン・民主党政権の思惑
なぜ、アメリカは今回のサミット、岸田さんの広島ネタを大いに支援してくれたのでしょうか?平和記念公園での献花、記念館の見学もしてくれたのでしょうか?
実はこの岸田さんの広島ビジョンも含めた今回のサミットの意図は「ロシア・中国の核使用の抑制」がベースだったと思いました。
ウクライナ戦争でロシアに核を使わせない、そうするための「足かせ」にバイデン・民主党政権は利用したのだと……思いました。
なので、岸田さんの広島ビジョン、今回のG7での声明の骨子は
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「ロシア、中国、北朝鮮、イランは核使用をやめろ」
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これが、「ホンネ」だということです。
これに集約されると思います。
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「おれたち、西側・G7は核軍縮を願っている。我々は平和を願う善人だ」
「にも、関わらずプーチンが核を使ったら」「北朝鮮の金政権が核開発を進め」「イランが核実験を続けたら」
「それは、世界を敵に回す悪党であり、悪魔だ」
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……こういう「シナリオ」にするためのバイデン・民主党政権らの巧妙な演出だったということです。
そういう点では広島、岸田さんらの願いとは別に「利用」されてしまいました。
そうですよね。そもそも、本当に「核軍縮」をするのであれば、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスが率先して「核を放棄」する宣言でも広島でしたほうが……本来の市民運動や左翼からすれば「正しい」のですけど、それはしません。
でも「自分たちの核はOKだけど、ロシアと中国と北朝鮮とイランが持つ核はダメ」
という……のが、G7広島ビジョンの骨子になります。
つまり
「すでに使った(広島や長崎)、連合国が持っている核の罪は問わない」
けれど
「でも、これから新たに核を持とう、使おうという国は罪だ。認めない」
「既存核保有国の既得権利は守る」
こういうことなのです。
今日以降、ウクライナのゼレンスキー大統領が驚くことに緊急来日する。
でも、これでロシアに「ウクライナへの核を使うなよ」という大いなるけん制効果が期待できます。
バイデン・民主党は「兵を動かすことなく」「世論アピール」でロシアに核をうたせないように……努力したわけです。
まあ、その努力は……認めます。知力でなんとかロシアを止めようという……考えは。
■利用された構図ではあるが
でも、私はこうした国際政治の「いやらしさ」「本質」はうんざりするほど……見てきました。
ですので、岸田さんの今回の「なけなしの努力」も「甘い」「本質的な平和運動ではない」と批判する人が左翼とか市民運動の人から出ると思います。
わかります。
だけど、私は「利用された」けど「これはやってよかった」と思います。本来アメリカ軍・バイデン大統領がこの企画のるつもりも、乗る必要もなかったのを、岸田さんはうまく「のせて」「少しでも前に進む努力」を「実現」したからです。
私からすると、今回、戦勝国の米英・フランスの大統領、かつての枢軸国で共に戦ったドイツ、イタリアの首相、そして日本。全員でまず「原爆で死んだ市民の慰霊」のために花輪を置いて、黙とうと礼をささげたことは……とても良かったと思います。
大事なのは「日本が負けた、アメリカが勝った」ではなく「もう戦争自体がない世界」「核兵器がない世界」を実現するため、世界中がいがみあいをなくして、一緒に進んで核を放棄していくゴールに歩く努力をすることです。
「安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから」
という慰霊碑のフレーズに右翼・左翼でいつも「なぐりあい」の批判が起きますが
この文面の「過ち」とは
「勝ち負けを問うのでなく、核兵器を使うことになる戦争自体をもうしない未来にするのです」という決意があるのですし、私はそう思っています。
それが多大な戦死者、敵味方に分かれて戦い国のために命をささげた兵士たち……私たちの先人に対し、今、残された日本国民の私たちができ、天国の彼らに対して私たちが報いることができることです。
岸田さんが政治生命をかけて今回したことは70年もかかってまだ「ようやくスタートライン」に立たせた……幼稚に見えるかもしれないけど、歴代の首相は誰もできなかった。
「日本が悪いから見る必要もない」から
「勝ち負けはおいて、まず、起きた結果、死んだ多くの人たちの姿を見ましょう」
それが大事だったと思うし、今回はそれが少しでもできたことは評価すべきです。
印象的だったのは記念館を見学したイタリアのメローニ首相が被爆者たちの光景、遺留品の展示をみて出てきてショックを受けたのか「顔が曇っていた」ことです。
だって、メローニ首相は女性でもあり子供や家庭のことも思いますよね。美しいイタリアの街並みが広島のようになったら……考えるだけでも……耐えられないでしょう。
他人の日本のことが、自分のことに変換された瞬間です。
私はそれでよかったと思う。大部分の世界中の人は「広島や長崎でどうなったか」いまだに分かっていないと思うんです。アメリカ人の大部分も。
メローニ首相も岸田さんが広島でサミットしてこういう企画しなかったら……広島の事は一生他人事で終わったでしょう。
どれだけの人が核兵器であっけなく、ひどい死に方で死んでいったか……よく理解していない。
でも、こういう機会で見てもらうだけで、すごくショック受けると……思うんです。
そうしたら「こんなことにならないようにしないと」という気持ちが絶対起きるんです。
そうしたら「どうしたら、核を使わないでよいだろうか?」
「どうしたら、戦争をしないようにできるだろうか?」
みなが考えるようになる……それが、広島の人が、この場所をかたくなにずっと守り続ける意味なのです。
岸田さんは「女性、若い人が広島の記念館をもっと見に来てほしい」とメッセージに入れています。いい事言ったと思います。
まずは、知ることです。
「お前が悪い、私が悪くない」でなく「戦争はしてはいけない」「やめないと」と思う人が増えれば……戦争は止まる。
だから岸田さんが今回してくれたアクションは、無駄ではないし、よかったです。
その岸田さんの思いや気持ちを国民も無にしないでほしいと思います。
いずれ、イスラエルやパレスチナ、ウクライナとロシアの和平会議が広島の平和記念館の前で行え、平和が実現する光景が観れたらいいと思います。
でも、今日のゼレンスキー大統領の来日、明日以降のロシアへの制裁の発表……それに対するロシアの報復攻撃、中国とアメリカの戦争が秒読みに入る展開が待っていることが、私には今、とても残念です。
(内海君:小市民)