内海新聞のブログ

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地方の弁護士がダメな理由

弁護士は儲かる仕事か?多分、多くの人は「そうだ」と言うだろう。

多くの人は、弁護士事務所は都会の一等地のこぎれいなビルにオフィスをかまえているので「弁護士先生」「社会的ステータスが高い」職業だと「錯覚」している。

 

でも、実際に自分は行政訴訟で市を訴え弁護団9人で戦った経験からして、あるいは知人の弁護士の話を聞いていて「そうじゃないよなあ」と痛感している。

 

世間では、一流校を出て一流大学の法学部を出て弁護士に……という「誤った幻想」を抱いている若者もいると思うので、弁護士もあんまり言いたがらない「本当の話」を書いておく。

 

■東大法学部は優秀だけども

 まず、小さいころからお受験して、偏差値60~70台の一流あるいは、上流高校に入り、親の期待と錯覚を一身に背負いながら、東京大学法学部に受かったとしよう。

うん、その辺の普通の人からしたら「いやあ、すごい」「神様」扱いになる。

でも、その本人すら……まだ「その先が難しいこと」に気づいていない。

法学部を順当に4年出る。そして司法試験を受ける。受かる。

私の印象では、東大法学部の子は4年の時点で「世間で活躍する弁護士とさほど変わらない知能レベル」で法的解釈や判断ができる。

そうね、たしかに東大の法学部に行く子の「勉強レベル」って高いんだ。

以前、土曜日の本郷キャンパスを訪れたとき、法学部の図書館はあいており、学生が熱心に勉強していた。やっぱ勝手に勉強しているよね。そりゃ受かるよ。

その後、明大の法学部、京大の法学部の学生のレベルも知ることになったが、東大に及ばなかった。

 

■弁護士で儲かるのはピラミッドの一部だけ

 知人の弁護士は、関西の一流私立高校を出て東大の法学部、弁護士になった。アメリカの法律事務所にもつとめ(小室みたいだな)ニューヨークの弁護士資格も持っている。

でも、その彼は良く言っていた。

「弁護士事務所っていいように見えるけど、しょせん個人商店ですから」

オフィスは都会の一等地。誰もが「いいね」という場所。フロア家賃も高いだろう。

でも、彼の「個人商店ですから」の意味は深い。

つまり、弁護士の事務所って「八百屋や魚屋と変わらない」ということだ。

「オフィスの家賃も、子分弁護士の給料も、パラリーガルの給料やボーナスも」……全部メインの弁護士が稼がないといけない。

では、弁護士の収入源……ってなんだよ?ずばり「訴訟」である。

あとは、企業からの顧問料がもらえれば……足しにはなるが。数百社でもいれば……。

あんま聞いたことがない気がする。日本の企業のセコさで、毎月弁護士に仕事がなくてもお金を払ってくれる会社……どれだけあるのかね?

本……あ、書いているよ。その人も。でも、1年、2年かけて本を一生懸命書いても最初の印税?いくらだよ。いいとこ50万円ぐらいだろ。

ということは、やっぱり本業の「訴訟」で稼がないといけない。

「離婚」「借金整理」……案件はいくらでもあるじゃないか?

あ、素人はそう思う。俺もそう思っていた。でも、自分は弁護士の生活の実態も知ることが何度かあった。

「刑事」はどうよ?儲からないね。だからたいていの弁護士はやりたがらない。刑事関係の処理ができる弁護士少ないよ。「犯罪事件やっている刑事の弁護士にあたってくれ」になる。

 

弁護士も世間では、お金ありそうで、いい面しているけど、実態は寒かった。

「離婚」案件やっても、さほどもらえるわけでもない。たとえば90万円ぐらいとれたとする。

でも、オフィスの家賃、子分弁護士の給料、パラリーガルの給料……全然足りないと思う。しかも、それは「着手して終わって」ようやく全額が回収できる。

それまではない。

「借金整理」。これも相手が貧乏なのでたいしてとれるものではない。

となると、よく弁護士事務所の取材で「1日多数の案件を処理して忙しい」というシーン。あれになる。歯医者と一緒で「1日数百人患者を診ないと」「まわらない」

ということ。

だから、いい姿じゃないんだよ。あれって。

しかも、訴訟というのは「勝率50%」のきわめてリスキーなものである。勝てば弁護士は成功報酬がもらえる。でも、負ければ着手金と少しの報酬で終わる。

やっぱり、家賃、人件費……賄うのは至難の業となってくる。

 

知人の弁護士の一人はテレビやマスコミでも時折出ているが、彼は中堅の弁護士事務所にいた。でも、なぜか、その後大手企業の正社員の法務部の人間に転職してしまった。そのあと、またやめて弁護士事務所している。

理由を聞きたかったけど、人の会社で働いた方が安定して食えると……いうことだわな。

 

ある日、弁護士会に行ったら「弁護士事務所でのセクハラ、パワハラ相談窓口」というチラシがデカデカと貼ってあった。弁護士の事務所ですら、程度の低い事件が起きるということだ。ミイラ取りがミイラ。

なので「個人商店」という弁護士の指摘は「その通り」なのさ。

 

先般、弁護士にめでたくなった人がいたが

「弁護士おめでとうございます。高給取りですね」

「それが、違いますからね」

「は?」

「ノキベンとか」

「弁当ですか?」

「ちがいますよぉ。弁護士になっても、すぐ仕事とれないし、稼げませんから、たいていは親分弁護士の事務所で丁稚奉公です。そこで仕事をわけてもらう。でも子分弁護士の給料払えない事務所も多いので、事務所の住所と名刺だけもらって籍を置いてやるだけなのが、軒先借りてやることからノキベンというのです」

「えー、ちゃんと固定給もらえないのですか?」

「あるところもあるけど、なかなか厳しいです。私はないですよ。」

「で、弁護士になって今年いくら稼げたのですか?」

「そうですねぇ。100万あるかないか……」

えー。それなら、コンビニでバイトしていたほうがマシかも。

ぜんぜん、みなさんのイメージが「勘違い」だとわかったと思う。

 

となると、同じ東大法学部出て、司法試験受かって、司法研修生やって、ゴールで3つの道が選べるけど、1つは弁護士、2つめは検察の検事、3つめは裁判官ね。

でも、検事や裁判官にはみんな成りたがらないらしい。確実に食えて安泰なのにね。

 

■地方にまともな弁護士が行かない理由

次に、せっかく弁護士を増やそう、もっと国民は裁判を気軽にやろう……と言っても。そうならない。なぜなら、地方には弁護士がいないからだ。

すごく少ない。

というのは、地方だと案件が少ない。だから。

やっぱり稼げる案件、特に企業事件は、東京やいいとこ大都市ぐらいだ。

なので、おのずとそこに弁護士はいることになる。

もちろん、そんな金もうけだけで弁護士はやってもいけない。医師と同じく、国家の司法制度を支え国民に奉仕する大事な専門家だ。「地方に行って、地域住民に貢献しろ」というけど、弁護士は行かない。

 

これについて、前述の東大法学部出た弁護士は言っていた。

「地方に弁護士を増やしたいなら、見合った給料や報酬を出せ!東京の倍増しすれば行くようになる」

あれ?そんなこと言うの?そんな言い方ないのでは……?と私も当初は思った。

「正義感でなくて、カネかよ」……だが、だんだん実態を知ると「もっともだ」と思ったよ。

彼は間違っていない。いや、他の弁護士が言いづらい本音を言っただけ。

これは、私が前回「ボランティアという名のブラック労働」で述べたように、日本はそういう知的な仕事や公に奉仕する仕事に対して極度に金を出さない国民性や体質がある。

あー、公務員がそのためにいるんだけど、彼らは給料泥棒ばかりして仕事しない。

つらくて、大変な仕事は……民間に押し付ける。あるいはボランティア募集でただ働きさせている。

 

この問題を解決するには、地方に弁護士が行くよう国や、県が「給料半額持ち」とか奨励策をすればいい。危険手当のように「僻地(へきち)手当」でも上乗せする。

そういう制度にすればいいんじゃないの?

そうしたら、地方に優秀な弁護士が行くようになる。

 

ちなみに、地方の弁護士の質は低い。俺もびっくりしたが「まともに訴状を書けない」「裁判進行もコケる」挙句の果てに「裁判官丸投げ」の弁護士が多い。

あきれた。当然、行政訴訟なんてやれない。訴訟の戦略描いて、戦う、法的テクニックも知らない。

俺の方が自分で調べて、裁判所に聞いた方がマシ……とかいう……お粗末すぎることが多かった。

やっぱできるのは、東京、せいぜい大阪の弁護士。

あとの地方は……寒い。シベリアみたいに寒い。

 

熱海の土石流も結局、弁護団は東京の弁護士がやる。

なぜ?静岡の弁護士に頼まないのだろう?って……そういうことだね。

静岡県ぐらいの裕福な自治体でもその程度だということなんだよ。